
徒然日記
その日、鶏の唐揚げが満たしたもの
スーパーのお惣菜コーナーに寄った。
透明のパックから色とりどりのお惣菜が話しかけてくる楽しい場所だ。
あ。
あったあった、茶色いコーナー。
手前には、いかリングの唐揚げ。
うん。悪くない。
お隣に、真蛸の唐揚げ。
そうそ。食感がたまらないんだよなぁ。
そんな風に脳内で既に食べているわたしの横に、
おじいさんが寄ってきて、並んだ。
おじいさんは、いかリングを、じっと見ている。
バックヤードが開いて、三角巾を頭にした中年の女性が出てきた。
おじいさんは近寄り、話しかけた。
「〜〜は、ありませんかねぇ…?」
何と言ったのかはわからない。
でも三角巾の女性は即座にバックヤードへ踵を返したと思うと、次の瞬間には茶色がずらりと並んだ大きなバットを両手で持って出てきて、おじいさんに見せた。
「ありますよ。小さいのと大きいの、どれにします?」
おじいさんは、小さいの、とつぶやいた。
わたしも、あ、わたしが探してたの、その子たちだ、と思った次の瞬間「わたしもください。」と口走っていた。わたしは、おおきいやつを手に取った。
するとメガネの若い女性もどこからか寄ってきて、選び始めた。

三角巾の女性は小柄だから、茶色がいっぱい乗った大きなバットを持つのは大変そうだ。
それでも両手でしっかりと持ってメガネの女性に見せながら、目じりを下げてわたしに顔だけ向けてこう言った。
「うれしい☺️」
なぜ、わたしに伝えてくれたのかはわからない。
コーナーに並べる隙もなく、手に取られ減っていく茶色たち。
その表情。
そのたったひと言に詰まった想い。
その日、
その鶏の唐揚げが、
一体どれだけのことを満たしたのか、計り知れない。
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