
八百屋と私。#4
15今回もお気に入りの八百屋だ。
昨日のことだが、ここでちょっとした出来事があった。
それは、値段の誤りである。
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いつものように軒先の段ボール野菜から見ていると、夏みかんがあり、ちぎった段ボールの切れ端に黒マジックで
『夏みかん 愛媛産 1個150円』
と走り書きされていた(9割以上が国産の取り扱いなのも、この店の応援したい理由のひとつだ)。
暑い日が続き、爽やかな酸味が恋しい。
1つ手にとって、店内へと入る。
初夏ということもあり、青物が多い。良い色だ。
そのなかで、空芯菜に目が止まった。
空芯菜(くうしんさい)は真夏の青物だから、走りのものだ。
空芯菜も、山積みにされたてっぺんに段ボールの端切れで
『空芯菜 埼玉 130円』
と書かれていた。
真夏みたいに暑かったからなのか、あまり迷うことなく手が伸びた。
いくつかの果物もカゴに入れ、レジへ向かう。
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レジはいつものお母さんだった。
いつも通り爆速で会計していく。
お母さんの値段の読み上げに合わせ、リズム良く野菜たちが左から右へ移動していく。
と、その時だ。
お母さん「あれっ?これ…夏みかんだよね??」
私「あ、はい!夏みかんです。」
お母さん「そうだよね、夏みかん…アレ?いくらだったっけ、夏みかん…。」
私は駆け出しながら「見てきます!」と言い、段ボールの走り書きをめがけて軒先へ走った。
『夏みかん 愛媛産 1個150円』
「150円です!!」レジに向かって私は叫んだ。
するとお母さんはお礼を言い、続けて謝った。
「ごめんねぇ、私じつは今日、さっきレジ交代したばかりでまだわかってないのよぉ!」
そう言いながらリズム良く野菜たちを左から右へ移動していく。
その時だ。
“クウシンサイ 120円”
レジに表示された。あれっ、空芯菜そんなに安かったかな?
私は背伸びして、体をひねり、店内の向こうのほうに山積みになった空芯菜のてっぺんにある走り書きを読もうとした。
「…あっ!」
見えた。『空芯菜 埼玉 130円』。
「お、お母さん、空芯菜は130円です、今120円で登録くださったような気がします。」
もうほとんどの野菜たちを左から右へ移動し終わっていたお母さんは、
「いやあねぇ!教えてくれてありがとうね!今、レジ打ち直すからね…いやだわあ、今日ずっと安く売っちゃってたんだわ」
レジを何やらかちゃかちゃし始めて、すぐに手を止めた。
「やっぱり、いいわ!教えてくれたから、お姉さんまでは120円っ!!」
レジから顔を上げ、お母さんは元気よく言った。
ありがとうございます、と言って、私も笑った。

空芯菜はおひたしにし、すでにお腹の中のため、写真なし。
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