
徒然日記
ごちそうさまでした、に込める想い
『こちらの赤ワインは、デカンタした方がより美味しくお召し上がりいただけると思います…』
ソムリエの右手には小振りで可愛らしいデカンタ。
ゆっくりゆっくりと、ボトルから赤ワインが移されて行く。ソムリエの額に汗がじんわりと、滲んでいく。
『こちらの赤ワインに合うと思いましたので、このネタにはこれこれこうしたたれを塗り炙ってみました…』
大きな身体の板長が、
少し張り詰めた面持ちでどしりとした声を響かせそう言った。
彼らはさっきまで赤の他人だったわたしたちのひと口ひと口を、今出来る限りの精一杯美味しい状態で充実させようとしていた。一生懸命さと美味しさをそのひと口に詰め込んでくれた。その心意気に、本当に有り難うございます、と思った。
わたしはお席で、ご馳走さまでした、と言って、玄関で、有り難うございました、と言った。それでも感謝を伝えきれないと思った。わたしは学生時代に体育会系だったから、ちょっと声を張りすぎてしまったかも知れなくて、玄関を出た後もしかして笑われていたかも知れない。それでも、この感謝を伝えたいから、また来よう。また来るその行動で感謝を表そう。そう決めて、嬉しい気持ちで月明かりの帰路につく。
ありがとう。ありがとう。

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